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私が「デザイン」という言葉を使うとき、それは見た目の美しさではなく、物事を俯瞰して構造的に捉え、解決に導く仕組みを設計することを意味しています。「組織デザイン」もまさにその意味です。組織の形をどう設計するかは、会社のパフォーマンスを根本的に左右する経営課題です。そしてその答えは、会社の規模によって大きく異なります。今回は前後編にわたり、中小規模の会社における組織デザインの考え方についてお伝えします。

組織デザインとは何か。なぜ今、問い直す必要があるのか

「組織デザイン」という言葉は、一般にはやや難解に聞こえるかもしれません。しかしその本質はシンプルです。「誰が、誰と、何をどのように決め、どのように動くか」という会社の基本的な動き方の仕組みを設計することです。組織図の形、意思決定の流れ、役割と責任の配分、情報の流れ方——これらすべてが組織デザインの対象です。

多くの中小企業では、組織の形が「気づいたらこうなっていた」という状態で固まっていることが少なくありません。創業期に社長が全部決めていた名残で、いまだにすべての承認が社長に集中している。部署はあるが、その境界が曖昧で誰が何を担うかわからない。あるいは逆に、部署の壁が厚くなりすぎて横の連携ができていない。こうした状態は、意識的に設計された結果ではなく、歴史の積み重ねの副産物です。

しかし、組織の形は業績に直結します。同じ人材・同じ商品・同じ市場であっても、組織の設計が異なれば、成果は大きく変わります。だからこそ、組織デザインは経営戦略の中核に位置づけられるべきテーマなのです。

ET-OFFICEが掲げる三本柱——デザイン戦略・ブランド戦略・人事労務戦略——のうち、組織デザインは主に人事労務戦略の領域に属しますが、他の二つとも深く連動しています。会社が体現したいブランドの価値観は、組織の構造と文化によって日常的に実践されます。経営全体の問題解決設計(デザイン戦略)も、それを実行する組織がなければ機能しません。組織デザインは、三本柱を束ねる「器」とも言えます。

大企業と中小企業では、「強さの源泉」がまったく異なる

組織デザインを考えるうえで、まず押さえておくべき前提があります。それは、大企業と中小企業とでは、「何がパフォーマンスを支えているか」が根本的に異なるということです。

大企業の強さは、「組織の力」にあります。豊富な人材・資金・情報・ブランド力、そして長年にわたって蓄積されたプロセスやノウハウの体系——これらが組み合わさることで、個人の能力差を超えた安定したパフォーマンスが生まれます。優秀な個人が抜けても、組織が補完する仕組みが整っています。言い換えれば、大企業は「個人の力」より「仕組みの力」で動く組織です。

一方、中小企業の強さは「個人の力」にあります。少ない人数で事業を回している以上、一人ひとりがどれだけの能力を発揮できるかが、会社全体のパフォーマンスに直接影響します。逆に言えば、個人の能力が阻害されるような組織設計になっていれば、そのダメージは大企業の場合よりもはるかに大きく会社全体に響きます。

中小規模の会社における組織デザインの最優先課題は、「各社員が個人の能力を最大限に発揮できる環境を整えること」です。この前提を踏まえると、大企業の「成功事例」がそのまま参考にならないことがわかります。大企業が採用している組織モデルは、「組織の力」を最大化するために設計されたものです。それを人数も規模も異なる中小企業にそのまま当てはめることは、効果がないどころか逆効果になる可能性があります。

ビルのフロアを会議室として貸し出す、という比喩

組織の形を設計するとき、私がよく使う比喩があります。ビルの1フロアを借り、それを貸会議室として運営するビジネスをイメージしてください。

まず、狭い雑居ビルのフロアを借りたケースを考えます。そこに間仕切りをたくさん設けて、細かく区切られた小会議室をいくつも作ったとしましょう。狭い空間をさらに細かく区切ることで、ひとつひとつの会議室は息苦しいほど狭くなります。大人数のミーティングには到底使えませんし、広々とした空間を望む顧客のニーズにも応えられません。間仕切りが多すぎることで、フロア全体の使い勝手は著しく低下します。

では逆に、広大なフロアを借りたケースはどうでしょうか。間仕切りを一切設けず、体育館のような巨大な空間をひとつの会議室として提供したとします。これもまた、顧客のニーズに応えられません。少人数の打ち合わせには空間が広すぎて落ち着かず、複数のグループが同時に使うこともできません。広さを活かすためには、適切な区切りと使い分けが必要なのです。

適切な組織設計とは、フロアの広さに見合った、最も使い勝手の良い間取り設計です。狭いフロアには狭いフロアなりの、広いフロアには広いフロアなりの最適解があります。そしてその答えは、フロアの面積(=会社の規模)によって変わります。

この比喩において、「フロアの広さ」は会社の規模(人員数・事業規模)に対応し、「間仕切り」は組織の階層・部署の分割・役割の細分化に対応します。「会議室の使い勝手」は、社員一人ひとりが能力を発揮できるかどうか、そして会社全体としての機動力・意思決定の速さに対応します。

縦割り組織の「効率性」は、中小企業では幻想になる

「縦割り組織」は、大企業において一定の合理性を持ちます。専門領域を明確に分け、各部門が自分の担当業務に集中することで、分業による効率性と専門性の深化が実現します。指揮命令系統が明確なため、大人数の組織を統制するうえでも有効な仕組みです。

しかし中小企業でこれをそのまま採用すると、利点よりも弊害のほうが大きくなりがちです。

❌ 中小企業での縦割りの弊害✓ 本来あるべき中小企業の強み
部署間の壁が情報連携を阻む意思決定のスピードが速い
「自分の仕事ではない」が生まれる現場の情報が経営層に届きやすい
意思決定が階層を経て遅くなる社員が仕事の全体像を持てる
横断的な課題に誰も動けない横断的な連携が自然に生まれる
社員が仕事の全体像を見失う個人の裁量と責任が大きい
管理コストが人数に不釣り合いになる変化への対応が柔軟にできる

中小企業が縦割りを導入すると、右側の「本来の強み」がことごとく損なわれます。大企業が組織の力で補えるものを、中小企業は個人の力と機動力で補っています。縦割りはその機動力の源泉を断ち切ります。

さらに深刻なのは、「自分の仕事ではない」という意識が社員の中に生まれることです。部署が明確に分かれると、その境界線が心理的な壁になります。顧客のニーズに応えるためなら部署を超えて動くべき場面でも、「それは○○部の仕事だから」と立ち止まってしまう。中小企業にとって、この柔軟性の喪失は致命的です。

ではフラットな組織なら良いのか — 「フラット」と「無構造」は違う

縦割りの弊害を知ると、「ならばフラットな組織にすれば良いのでは」という結論に飛びつきたくなります。確かに、過剰な階層構造を取り除き、全員がフラットに連携できる組織は、中小企業の強みを活かすうえで有効な方向性です。しかし、「フラット」を突き詰めすぎると、今度は別の問題が生じます。

組織に最低限の構造がなければ、意思決定の主体が不明確になります。誰もが意見を言えるが、誰も最終決定を下せない。全員で合議するが、時間がかかりすぎて機を逃す。役割の境界がなさすぎて、誰が何に責任を持つのかわからなくなる。これらはフラット組織が陥りやすい問題です。

フラットな組織とは、「階層が少なく、情報や意思決定が速く流れる組織」であって、「誰もが同じ権限を持ち、役割の区別がない組織」ではありません。最低限の役割の明確化・意思決定権の設計・情報の流れの整備は、フラットな組織においても必要な構造です。構造のなさは「自由」ではなく「混乱」を生みます。

先ほどの比喩に戻ると、広大なフロアを間仕切りなしで使うことの不便さがこれに当たります。広さは資産ですが、使い勝手のある区切りがなければ、その広さは活かせません。適切な間取りがあってこそ、広いフロアは機能します。つまり、縦割りでも過度なフラットでもない、「会社の規模に見合った適切な構造」が必要なのです。

後編(下)「中小規模の会社における組織デザイン(下) — 「規模に見合った間取り」を設計する三つの問い」では、この「規模に見合った間取り」を実際にどう設計すればよいか、3つの問いというフレームワークと、人材の流動性・組織の柔軟性を高めて個人のパフォーマンスを最大化する視点について論じています。


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