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前編(上)のおさらい

前編では、組織デザインとは「誰が、誰と、何をどのように決め、どのように動くか」を設計することであり、大企業は「組織の力」、中小企業は「個人の力」で動くという、根本的な違いがあるという話をしました。中小企業が大企業の組織モデル(縦割り)をそのまま採用すると、機動力や柔軟性という本来の強みが損なわれます。一方で、過度に「フラット」を突き詰めると、意思決定の主体が不明確になるという別の問題が生じます。必要なのは、縦割りでも無構造でもない、「会社の規模に見合った適切な構造」です。

後編(下)では、この「規模に見合った間取り」を実際にどう設計すればよいか、具体的な視点をお伝えします。

「規模に見合った間取り」を設計するための三つの問い

中小企業はどのように組織の間取りを設計すればよいのでしょうか。コンサルティングの現場で意識している三つの問いをご紹介します。

問い確認すべきポイント
① 意思決定はどこで、誰が行うか判断が必要なとき、誰が最終的に決めるのかが明確か。決定が一人に集中しすぎていないか。逆に分散しすぎて誰も決められなくなっていないか
② 情報はどのように流れるか現場の情報が経営判断に必要なタイミングで届いているか。逆に経営の方向性が現場に伝わっているか。情報の滞留・断絶が起きていないか
③ 各自の役割と裁量は適切か各社員が自分の担うべき仕事と責任の範囲を理解しているか。能力を発揮できる裁量が与えられているか。担当範囲が狭すぎず広すぎないか

この三つの問いは、縦割りかフラットかという「形の議論」よりも根本的なものです。形は手段であり、これらの問いへの答えを実現するための器にすぎません。組織デザインの出発点は、「うちの会社の規模と事業内容において、この三つがどうあるべきか」を考えることです。

例えば、人員が10名から30名に増えたある会社では、これまで社長一人が即決していた現場の判断が、規模拡大とともに社長を経由する手続きとして残り続けていました。社長は日々の細かな承認作業に時間を取られ、本来注力すべき経営判断に手が回らなくなる。一方で現場は、確認待ちのために動きが止まる。この状態は、①の「意思決定はどこで、誰が行うか」という問いを置き去りにしたまま、人員だけが増えたことで生じた典型的な歪みです。一定額以下の判断は現場の責任者に委譲する、という小さな権限設計の見直しだけで、機動力が大きく改善することがあります。

意思決定が社長に集中していて現場が動けないのか、逆に決定権が不明確で誰もが判断を先送りしているのか。情報が特定の人物に滞留して全体に流れていないのか、あるいは情報が多すぎて何を優先すべきかわからなくなっているのか。こうした「現状の歪み」を特定したうえで、会社の規模と目指す方向性に合った組織の形を考える必要があります。

組織デザインは「一度作ったら終わり」ではない

最後に強調しておきたいことがあります。組織の形は、会社の成長とともに変化させるものだということです。5人の会社と50人の会社では、最適な組織の形はまったく異なります。5人のときに機能していた「全員が社長直轄でフラットに動く」形は、50人になると機能不全を起こします。逆に50人向けの組織構造を5人の段階で導入すれば、管理のためのコストだけがかさみ、動きが重くなります。

会社が成長するとき、売上目標・採用計画・新事業展開などは意識的に計画されます。しかし組織の形は「気づいたら追いついていなかった」という状態になりがちです。人が増えたのに意思決定の仕組みが変わっていない。新しい事業が始まったのに役割分担が旧来のままになっている。こうした「組織の成長遅延」が、会社全体のパフォーマンスのボトルネックになることがあります。

組織デザインは、対処療法ではなく根本から解決するという視点で考えるべきテーマであり、「一度設計したら完成」ではなく、会社の成長フェーズに合わせて継続的に見直すものです。少なくとも、人員が大きく変化したとき・事業の内容や規模が変わったとき・経営課題の性質が変わったとき——この三つのタイミングで、組織の形を問い直すことをお勧めします。

「組織の形」を変えることへの心理的抵抗

組織変更は、社員の役割・権限・評価に直接影響するため、経営者にとっても社員にとっても心理的な抵抗が生じやすいテーマです。しかし、その抵抗に負けて「現状維持」を続けることが、会社の成長を阻む最大の要因になることも少なくありません。

抵抗が生まれる背景には、「今のやり方を否定された」という感情的な反応と、「自分の役割や評価が下がるのではないか」という現実的な不安の両方があります。これを乗り越えるためには、組織を変える理由を「会社の都合」としてではなく、「社員一人ひとりが能力を発揮しやすくなるため」という目的に結びつけて説明することが欠かせません。変えることへの丁寧な説明・関係者との対話・変更プロセスの設計もまた、組織デザインの一部です。

特に中小企業では、組織変更の影響が一人ひとりに直接届きやすい分、説明や対話を省略すると不信感が一気に広がるリスクがあります。逆に、変更の意図と過程を共有しながら進めれば、中小企業の機動力を活かして大企業よりも早く新しい組織の形に適応できるという利点もあります。組織デザインの実行フェーズにおいても、「個人の力」を活かす中小企業らしいアプローチが有効です。

人材の流動性と組織の柔軟性が、個人のパフォーマンスを最大化する

組織デザインを継続的に見直す視点とあわせて、もう一つ押さえておきたい観点があります。それは、「人材の流動性」と「組織の柔軟性」を高めることで、個人のパフォーマンスを最大化するという視点です。

人は、経験や年齢、社内外の環境変化などにより、時間とともにその技術・能力・考え方が変わっていきます。入社時に適していた配置が、数年後には必ずしも適していないことがあります。若手の頃は現場での実行力が評価されていた社員が、経験を積むことでマネジメントや企画に強みを発揮するようになることもあれば、逆に、環境変化への適応に時間を要する社員が出てくることもあります。これは能力の優劣の問題ではなく、人が時間とともに変化していくという、当然の前提です。

しかし、多くの中小企業では、一度決まった配置や役割が、本人の変化や周囲の状況変化とは関係なく固定され続けてしまいます。組織の形が「気づいたら追いついていなかった」のと同じように、個人の配置もまた「気づいたら本人の現状に合っていなかった」という状態に陥りやすいのです。

状態個人への影響組織への影響
配置が固定化された組織能力の変化が活かされず、意欲が低下しやすい適材適所のズレが蓄積し、パフォーマンスが頭打ちになる
流動性・柔軟性のある組織変化した能力・関心を発揮できる場が見つかりやすい常に適材適所の状態に近づき、組織全体の機動力が維持される

人材の流動性を高めるというのは、頻繁に人を入れ替えるという意味ではありません。社内における役割・担当業務・チーム編成を、固定的なものとして扱わず、本人の成長や変化、事業の状況に応じて見直せる状態にしておくということです。定期的な面談で本人の関心や強みの変化を把握する、異動や担当替えを「特別な人事異動」ではなく「日常的な再配置」として運用できる仕組みを持つ、新しい役割に挑戦する機会を用意する——こうした取り組みが、人材の流動性を支えます。

組織の柔軟性も同様です。前編で論じた「規模に見合った間取り」は、一度決めた間取りに人を当てはめるためのものではなく、人の変化に応じて間取り自体も調整できる設計であるべきです。役割の境界を厳格に固定しすぎると、社員の能力が変化しても組織がそれを受け止められません。三つの問いのうち「③各自の役割と裁量は適切か」を定期的に問い直すことは、まさにこの流動性・柔軟性を維持するための実践です。

中小企業の強さは「個人の力」にあるという前編の議論を踏まえれば、この視点の重要性がより明確になります。個人の能力が時間とともに変化するなら、その変化を組織が柔軟に受け止め、常に適材適所の状態を維持し続けることこそが、社員の能力と意欲を引き出し、中小企業の機動力を持続させる鍵になります。組織デザインとは、一度の配置で完成させるものではなく、人と組織がともに変化し続けることを前提に設計するものなのです。

まとめ

  • 組織デザインとは「誰が、誰と、何をどのように決め、どのように動くか」を設計すること
  • 大企業は「組織の力」、中小企業は「個人の力」で動く——中小企業の最優先課題は各社員が能力を最大限発揮できる環境を整えること
  • 縦割り組織は中小企業の機動力・柔軟性を損ないやすい一方、過度なフラット化は意思決定の不明確さを生む
  • 「会社の規模に見合った適切な構造」を、意思決定・情報の流れ・役割と裁量という三つの問いから設計する
  • 組織デザインは一度作ったら終わりではなく、人員・事業・経営課題が変わるタイミングで継続的に見直すもの
  • 人は時間とともに技術・能力・考え方が変化するため、人材の流動性と組織の柔軟性を高めることで常に適材適所の状態を維持することが、個人のパフォーマンスを最大化する

組織デザインは、「組織図を書き直す作業」ではありません。会社の規模・事業の性質・人材の特性を企業を一つの生命体として全体俯瞰し、各社員が能力を最大限に発揮できる環境を構造として設計すること。それがET-OFFICEの考える組織デザインです。

「うちの組織、なんとなく動いてはいるが、もっとうまくいくはずだ」と感じているなら、それは組織の形を見直すサインかもしれません。


ET-OFFICE 経営労務デザインでは、組織の現状診断から、意思決定・情報の流れ・役割設計の見直し、変更プロセスの設計まで、中小企業診断士・社会保険労務士の両面からご支援しています。現状診断からはじまるご相談を、いつでもお気軽にどうぞ。初回相談は無料です。

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