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「厚生労働省が9月1日から、時間外・休日労働の時間数だけに着目し、月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直す」というニュースが話題になりました。日本の長時間労働は、以前と比べればかなり改善されてきましたが、まだ十分とは言えません。労働時間を減らすことは、ワークライフバランスの向上を通じて社員の幸福度を高めますが、一見すると会社側には特段のメリットがないようにも思えます。しかし実際には、社員の幸福度・満足度の向上はエンゲージメントを高め、人的パフォーマンスの向上、離職防止、そして採用活動におけるイメージアップにもつながることが期待できます。

労働時間が増える要因は一様ではない

労働時間が増える要因は多様であり、制度面の対応だけでは改善できない場合も少なくありません。人員不足、厳しい納期、突発的な対応などは、制度を整えるだけでは解決しにくい問題です。これらは、事業計画の見直しや採用戦略の強化など、より根本的な経営課題として向き合う必要があるでしょう。しかし一方で、制度の改善によってある程度まで改善できるケースもあります。特に、繁忙期でもなく特別な事情もないにもかかわらず、残業が慢性的に常態化している職場では、この可能性が高いと考えられます。まずは、自社の残業が「構造的な業務量の問題」なのか、「慣習として定着してしまった問題」なのかを切り分けて考えることが、対策を検討する出発点になります。

残業が常態化する要因として考えられるのは、大きく次の二点の組み合わせです。

  • 社員が「残業代を得て給与を増やしたい」と考えている
  • 職場に無駄な仕事・非効率な業務が多く残っている

社員の側には①の気持ちが働くため、②を自発的に改善しようとするインセンティブが生まれにくくなります。一方、会社側は「仕事が終わっていること」を重視し、労働時間の長短そのものにはあまり関心が向きません。両者の利害が微妙にずれたまま放置されることで、結果として労働時間が増え続ける構造が生まれます。

有効な施策 — 固定残業代+原則禁止のセット

この構造に対して有効な施策の一つが、「毎月の給与に、あらかじめ一定時間分の残業代を組み込んで支給する」制度、いわゆる固定残業代(見なし残業代)制度です。この制度のもとでは、実際の残業がゼロの月であっても、所定時間分の残業代はあらかじめ上乗せして支給されます。一方、実際の残業時間が所定時間を超えた場合には、その超過分について別途残業代を支払います。そのうえで、残業を原則禁止とし、やむを得ず必要な場合は事前に許可を得る制度として運用します。

状況支給内容
実際の残業がゼロだった月所定時間分の固定残業代を、そのまま上乗せ支給する
実際の残業が所定時間内だった月固定残業代の範囲内でまかなわれ、追加支給は発生しない
実際の残業が所定時間を超えた月超過分について、別途残業代を追加で支払う

なぜこの組み合わせが効くのか

一定の残業代をあらかじめ支払うことで、「残業をして給与を増やしたい」という社員側の動機そのものが和らぎます。残業をしてもしなくても、所定時間分の残業代は変わらず支給されるためです。そのうえで残業が原則禁止となれば、社員は限られた時間内に成果を出す必要に迫られ、無駄な会議や非効率な業務を自発的に見直すインセンティブが働きます。これにより、職場全体の業務効率化が進みやすくなります。

この仕組みのポイントは、会社側が一方的に「残業をするな」と命令するのではなく、社員自身が「限られた時間の中でどう成果を出すか」を主体的に考えざるを得ない状況を作り出す点にあります。命令による残業削減は、業務量そのものが変わらなければ、持ち帰り残業やサービス残業といった、見えないところでの長時間労働を誘発しかねません。固定残業代によって金銭的な動機を取り除いたうえで残業を原則禁止にすることは、「なぜ時間内に終わらないのか」を社員自身に問い直させ、業務の見直しを内発的な動機に基づいて進めさせる仕組みだと言えるでしょう。

ワークライフバランスの向上によって社員満足度が高まれば、社員のパフォーマンス向上にもつながるため、会社側にもメリットが生まれます。また、固定残業代として支払う金額は、もともと常態的に発生していた残業代を制度化したものであるケースが多く、制度導入によって会社の人件費負担が大きく増えるわけではない、という点も導入のハードルを下げる要素です。むしろ、これまで実際の残業時間に応じて変動していた人件費が、固定残業代という形で平準化されることで、月々の人件費予測が立てやすくなるという副次的なメリットも期待できます。

制度だけでは解決しない部分 — 職場の空気づくり

ただし、社員個人では仕事量や業務の終了時間をコントロールしにくい業務も存在します。営業職であれば顧客都合による急な対応が発生しますし、製造現場であればライン全体の稼働状況に左右されます。こうした業務については、個人の努力だけに委ねるのではなく、会社全体として「就業時間内に業務を終わらせること」の重要性を組織全体で意識する必要があります。

また、職場の雰囲気として、就業時間内に必要十分な成果を上げることを最も評価するという空気を醸成することも欠かせません。残業をしない社員が「周囲に対して引け目を感じる」ような雰囲気が残っていては、制度の効果は十分に発揮されません。長年「残業する人ほど頑張っている」という評価軸が根付いてきた職場ほど、この意識転換には時間がかかります。この空気づくりは、経営者自身が先頭に立って取り組むべき課題です。経営者が定時退社を実践し、残業をしないことを前向きに評価する姿勢を示すことで、初めて制度は組織全体に浸透していきます。評価制度そのものにも、「時間をかけたこと」ではなく「時間内に成果を出したこと」を反映させる仕組みを組み込むことができれば、空気づくりはより実効性のあるものになるでしょう。

三本柱の視点で残業削減を経営に組み込む

ET-OFFICEが掲げるデザイン戦略・ブランド戦略・人事労務戦略の三本柱の視点から、残業削減の取り組みを整理します。

視点取り組みの方向性
デザイン戦略
業務プロセス全体を俯瞰して見直す
無駄な会議・重複した確認作業・非効率な承認フローなど、業務プロセス全体を俯瞰し、残業削減と両立できる仕組みを設計する
ブランド戦略
働きやすさを採用ブランドとして発信する
残業の少なさやワークライフバランスへの取り組みを、採用ページや会社案内で具体的な制度とともに発信する
人事労務戦略
固定残業代制度を適切に設計する
固定残業代制度は、基本給と固定残業代部分を明確に区分する等、法的な要件を満たした設計が必要。就業規則・賃金規程の整備も含め、専門家に相談しながら制度化する

まとめ

  • 労働時間削減は社員の幸福度を高めるだけでなく、エンゲージメント向上・人的パフォーマンス向上・離職防止・採用イメージ向上を通じて会社側にもメリットがある
  • 残業が常態化している職場では、「社員が給与を増やしたい」動機と「無駄な仕事が多い」実態の組み合わせが原因である可能性が高い
  • 固定残業代制度と残業原則禁止・事前許可制のセットは、この構造に対する有効な施策になりうる
  • 固定残業代により社員の残業への金銭的動機が和らぎ、残業禁止により業務効率化への自発的なインセンティブが生まれる
  • 制度だけに頼らず、就業時間内の成果を評価する職場の空気づくりを、経営者自身が先頭に立って行う必要がある
  • 固定残業代制度の導入には法的な設計要件があるため、専門家に相談しながら制度化することが望ましい

ET-OFFICE 経営労務デザインでは、固定残業代制度の設計から就業規則の整備、残業削減を通じた採用ブランディングまで、三本柱の視点でトータルにサポートします。「残業の常態化を何とかしたい」「制度をどう設計すればよいかわからない」という方も、まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。

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