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2026年12月1日から、企業型確定拠出年金および個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額が拡大されます。企業に勤める方がiDeCoに加入する場合、他の企業年金等がない場合の拠出限度額は、月額23,000円から62,000円へと大きく引き上げられます。約2.7倍という大幅な引き上げ幅であり、社員の老後資産形成における選択肢の幅が、制度面から大きく広がることになります。以前より、企業が社員のiDeCo掛金に上乗せして拠出する「iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)」は、社員のエンゲージメントを高める有効な福利厚生の一つでした。今回の限度額拡大により、企業がiDeCo+を福利厚生として活用する魅力は、さらに大きくなると考えられます。

iDeCo+とは何か

iDeCo+(正式名称:中小事業主掛金納付制度)とは、従業員数300人以下の中小企業が、従業員が拠出するiDeCoの掛金に、会社として掛金を上乗せできる制度です。従業員自身の老後資産形成を、会社が直接支援する仕組みであり、企業年金制度を持たない中小企業にとって、比較的導入しやすい福利厚生の選択肢として位置づけられています。企業型確定拠出年金や確定給付企業年金のような制度を新設するには、相応の準備と継続的な運営コストがかかりますが、iDeCo+は従業員個人のiDeCo口座に上乗せする形を取るため、企業側の事務負担が比較的軽いという特徴もあります。今回の拠出限度額拡大により、上乗せできる余地そのものが広がるため、iDeCo+の設計の自由度が高まります。

なぜiDeCo+が社員エンゲージメントを高めるのか

資産運用の観点からiDeCoの優位性を考えたとき、最大の魅力は「継続性」にあります。いわゆるドルコスト平均法の効果です。ドルコスト平均法そのものについては、すでに広く語り尽くされているためここでは割愛しますが、要点を一言でまとめれば「長期間、継続して積み立てることが重要である」ということに尽きます。iDeCo+によって掛金が上乗せされ、なおかつその積み立てが長期にわたって継続することで、社員は自身の資産形成が着実に前進している実感を得やすくなります。この実感の積み重ねが、会社への信頼感やエンゲージメントの向上につながると考えられます。

また、iDeCo+は単に「掛金が増える」という金銭的なメリットにとどまりません。会社が毎月継続的に掛金を上乗せし続けるという行為そのものが、社員にとって「会社が自分の将来を考えてくれている」という継続的なメッセージになります。給与の一部として一括で受け取る手当とは異なり、毎月の積立という形を取ることで、社員の記憶に残りやすく、日々の実感として定着しやすいという側面もあるでしょう。福利厚生は、導入した瞬間だけでなく、日々の運用を通じて効果が積み重なっていく性質を持っています。

見落とされがちなリスク — 転職時の掛金減額

iDeCo自体は、転職した場合でもそのまま継続できる制度です。しかし、iDeCo+は各企業の任意導入であるため、転職先の対応によって扱いが大きく異なります。現状では、iDeCo+を実施していない企業のほうが多数派です。したがって、転職によって、それまで受けていた掛金の上乗せがなくなり、実質的な掛金が減額になるケースは十分に想定されます。

状況資産形成への影響
iDeCo+実施企業に継続勤務上乗せ分を含めた掛金で、ドルコスト平均法の効果を最大限に活かせる
iDeCo+未実施企業へ転職掛金が減額となり、積立ペースが鈍化する可能性がある

もちろん、掛金が減額になったとしても、iDeCo自体を継続することは可能です。しかし、資産運用において長期・継続が重視される理由の一つは、「買い時を逃さない」ことにあります。もし転職によって掛金が減額した期間が、たまたま市場の「買い時」であった場合、せっかくのチャンスを十分に活かせなかったことになります。仮に後になって掛金を増額したとしても、その「買い時」そのものはすでに過ぎ去っており、取り戻すことはできません。

この点は、資産運用における積立投資の本質的な難しさでもあります。市場が下落している局面は、多くの人にとって心理的に「買いにくい」タイミングですが、長期的な視点で見れば、実は資産形成における重要な「買い時」であることが少なくありません。掛金が一定であれば、価格が下がった局面ではより多くの口数を購入でき、これが平均取得単価を引き下げる効果につながります。転職によって掛金が意図せず減額されるということは、こうした重要な局面での積立量が本来より少なくなってしまうリスクを意味します。社員個人の努力だけでは埋め合わせることが難しい構造的な問題であるからこそ、企業側の制度設計が重要になります。

「継続」そのものが、会社に居続ける理由になる

ここまで述べてきた「継続の重要性」は、実は人事労務の観点から見ても、もう一つの重要な意味を持っています。それは、iDeCo+による資産形成の継続性が、社員にとって「今の会社に居続ける積極的な理由」になりうるという点です。

社員が転職を検討する際、給与水準や仕事内容だけでなく、「今の会社を辞めることで、何を失うのか」という損失の側面も、無意識のうちに判断材料になります。iDeCo+によって積み上げてきた資産形成のペースは、転職によって崩れる可能性がある——この認識自体が、転職の意思決定における一つの心理的なブレーキとして働くと考えられます。特に、拠出限度額拡大によってiDeCo+の上乗せ額が大きくなればなるほど、「継続を手放すことの機会損失」は、社員にとってより実感しやすいものになるはずです。

もちろん、これは社員を心理的に縛りつけるための仕組みとして捉えるべきものではありません。むしろ、会社が長期にわたって社員の資産形成を支え続けているという事実そのものが、「この会社で働き続けることには、目に見える積み重ねがある」という前向きな実感を生みます。給与や賞与のように、その場で消費され得るものではなく、将来にわたって複利的に積み上がっていく資産という形を取るからこそ、iDeCo+は他の待遇改善策にはない、独特の定着効果を持つのではないかと私は考えています。人材の流動性が高まっている労働市場において、「辞める理由をなくす」だけでなく「積極的に居続けたくなる理由をつくる」という発想は、これからの人事労務戦略において重要性を増していくでしょう。

拠出限度額拡大とiDeCo+の相乗効果

今回の拠出限度額拡大により、iDeCo+を通じた掛金増額の余地が大きく広がります。この掛金増額と、ドルコスト平均法による「チャンスを逃さない」という戦略が組み合わさることで、社員の資産運用の効果はより高まり、福利厚生としての実質的な価値も充実したものになります。iDeCo+を実施することは、既存社員のエンゲージメント向上だけでなく、採用活動における大きなアピール材料にもなります。「老後資産形成を会社として支援している」という姿勢は、給与額そのものとは異なる次元で、求職者に安心感を与える要素になりえます。

特に、近年は退職金制度や企業年金を持たない中小企業も少なくありません。そうした企業にとって、iDeCo+は比較的着手しやすい福利厚生強化策の一つです。既に確定拠出年金や企業年金を実施している企業であれば、拠出限度額の拡大分を踏まえて掛金水準を見直す好機になりますし、これまで何も実施していなかった企業であれば、今回の制度改正を機にiDeCo+の新規導入を検討する価値は十分にあると言えるでしょう。

三本柱の視点でiDeCo+を経営に組み込む

ET-OFFICEが掲げるデザイン戦略・ブランド戦略・人事労務戦略の三本柱の視点から、iDeCo+の活用を整理します。

視点取り組みの方向性
デザイン戦略
福利厚生全体の中でiDeCo+を位置づける
退職金制度・企業年金の有無を含め、既存の福利厚生を俯瞰したうえで、iDeCo+がどのような役割を果たすかを設計する
ブランド戦略
採用活動でのアピール材料として発信する
iDeCo+の実施を、採用ページや会社案内で「社員の資産形成を会社として支援している」というメッセージとして発信する
人事労務戦略
制度導入・掛金設計を検討する
拠出限度額拡大を機に、iDeCo+の新規導入や掛金水準の見直しを検討する。既に導入済みの企業も、上乗せ額の拡大余地を確認する

まとめ

  • 2026年12月1日より、iDeCoの拠出限度額(他の企業年金等がない場合)が月額23,000円から62,000円へ拡大される
  • iDeCo+は、企業が社員のiDeCo掛金に上乗せできる制度で、拠出限度額拡大により設計の自由度が高まる
  • iDeCoの最大の魅力は「継続性」にあり、ドルコスト平均法の効果を活かすには長期間の積立が重要
  • iDeCo+は企業の任意導入のため、転職先によって掛金が減額になるリスクがあり、「買い時」を逃す可能性がある
  • 資産形成の「継続」が転職によって崩れるという認識は、社員にとって転職を思いとどまらせる心理的なブレーキとなり、会社に居続ける積極的な理由になりうる
  • 拠出限度額拡大とiDeCo+の組み合わせにより、資産運用の効果と福利厚生の充実度が高まる
  • iDeCo+の実施は、既存社員のエンゲージメント・定着率の向上と、採用活動でのアピール材料の両方に寄与する

ET-OFFICE 経営労務デザインでは、iDeCo+を含む退職金制度・確定拠出年金の設計から、福利厚生を通じた採用ブランディングまで、三本柱の視点でトータルにサポートします。「iDeCo+の導入を検討したい」「自社への影響を知りたい」という方も、まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。

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