日用雑貨・家電・文房具など、日常的に使う製品を企画・開発する際、「機能としての形」と「意匠としての形」に並んで、もう一つ重要な要素があります。それが「色」です。どれほど優れた機能と美しいフォルムを持つ製品であっても、色の選択を誤れば台無しになります。逆に、最適な色を選ぶことで、形・デザインの良さをより際立たせることができます。そして色の選択において、「感性だけに頼らず、仕組みとして理解する」という視点を持つことが、プロダクトのブランド価値を高める上で非常に有効です。今回は、流行色の仕組みと現在のトレンドを整理しながら、色がプロダクトのブランド戦略に与える影響について論じます。
流行色には、国際的な選定プロセスがある
流行色には、専門機関による国際的な選定プロセスがあります。インターカラー(国際流行色委員会)が実シーズンの約2年前に世界的なトレンドの方向性を決定し、それをもとに日本では一般社団法人日本流行色協会(JAFCA)が国内市場向けのカラーを、米国ではパントン社(PANTONE)がカラー・オブ・ザ・イヤーを毎年発表しています。
こうした機関の選定は、単に「流行しそうな色を選ぶ」のではなく、約2年後の世界情勢・社会心理・経済動向を先読みし、時代の気分を色のコンセプトとして提案するものです。つまり流行色は、単なる「はやり」ではなく、時代の感情に対する一種の応答として設計されています。
優れたデザイナーやカラーコーディネーターは、こうした仕組みを踏まえながらも、自らの感性でより精度の高い判断を下すことができます。しかし、社内にそのような専門的な感性の持ち主が在籍していない企業も多いでしょう。流行色の「仕組み」を理解することで、たとえ専任のデザイナーがいない場合でも、色の選択において根拠ある判断ができます。「感性がなければ良い色は選べない」のではなく、「仕組みを理解することで感性を補完し、一定水準以上の判断ができる」——この視点が、色の選択を属人的な才能に依存させず、組織の経営能力として定着させる第一歩です。
アパレルから自動車へ — 流行色の「波及サイクル」を知る
流行色はすべての産業に同時に波及するわけではありません。最も早くアパレルに現れ、文房具・日用雑貨・インテリアを経て、最後に自動車・大型家電といった耐久消費財へと、数年から十数年のタイムラグを伴いながら波及していきます。
| 波及の順序 | 産業カテゴリ | 特徴 |
|---|---|---|
| 最速(先行) | アパレル・ファッション | トレンドの最前線。シーズンごとの入れ替わりが速い |
| ↓ | メイク・ビューティー | アパレルの数シーズン後に追随 |
| ↓ | 文房具・日用雑貨 | 製品サイクルが中程度。トレンドを比較的早く取り込める |
| ↓ | インテリア・内装 | 耐久性が求められるため転換がやや遅い |
| 最遅(後行) | 自動車・大型耐久消費財 | 開発リードタイムが長く、波及に数年〜十数年を要する |
自動車の色にアパレルで流行した色が現れているとき、そのトレンドは「最終段階」にあるというサインです。プロダクト企画者にとって、この波及サイクルを理解していることは、「今どの位置にいるか」を判断する上で不可欠な知識です。日用雑貨・文房具メーカーであれば、アパレルのトレンドを数シーズン先読みして製品に落とし込む時間的余裕があります。一方、自動車・大型家電メーカーは開発リードタイムが長いため、インターカラーやJAFCAの選定情報を早期にキャッチして設計に反映させる必要があります。波及サイクルのどこに自社製品が位置するかによって、情報収集と意思決定のタイミングが変わるのです。
現在のトレンドと、転換の兆し
ここ10年ほど、日本市場においては深みのあるグリーンやグレー、そしてくすみがかった(マット・スモーキーな)カラーへの関心が高まり続けてきました。塗料大手のBASFが2026年1月に発表した自動車カラートレンドレポートでも、有彩色の中ではグリーンが世界的に最も増加傾向にあると報告されています。また、これまでの自動車では見られなかったくすんだブルーやグリーンなど新鮮な色が各メーカーのラインナップに加わってきており、マット系の表面質感も国際市場で定着しつつあります。アパレルから自動車まで波及した現在、このトレンドは成熟段階にあると読むことができます。
| 時期 | 主なトレンドカラー | 読み取れる方向性 |
|---|---|---|
| 〜2024年 | ボタニカルグリーン・スモーキーグリーン系 | アパレルから自動車まで浸透。くすみカラー全盛期 |
| 2025年 | モカ・ムース(PANTONE)/ホライゾングリーン(JAFCA) | ブラウン系が台頭。落ち着き・温かみへの移行 |
| 2026年 | クラウドダンサー(PANTONE)/ハートフェルトピンク(JAFCA) | 淡色・暖色への転換の兆し。柔らかさ・希望の感情が台頭 |
注目すべきは2026年の動向です。JAFCAが発表した2026年のメッセージカラー「ハートフェルトピンク」は柔らかく温かみのあるライトピンク、パントン社のカラー・オブ・ザ・イヤー「クラウドダンサー」は雲のような穏やかなオフホワイトです。落ち着いたグリーン・グレー系が主流だったここ数年から、明るく暖かみのある淡色・暖色方向への緩やかな転換の兆しとして読み取ることができます。ただしこれはアパレルを中心とした先行トレンドであり、日用品への波及は数年後、自動車などの耐久消費財への波及はさらに長い時間を要します。
色の歴史を振り返ると、社会不安が続く時代には安らぎ・落ち着き・自然を感じさせる色が好まれ、社会が安定・回復に向かうにつれて活力・明るさを感じさせる色が台頭する傾向があります。2026年のトレンドカラーにライトピンクやオフホワイトが選ばれたことは、暗く落ち着いた色調から「温かさ・希望」への欲求の高まりを反映しているとも解釈できます。この流れがオレンジや黄色といった活力系の色に本格展開していくかどうかは、今後の社会情勢にも左右されるでしょう。
色は「使われる場」と調和して、初めて力を発揮する
流行色の知識はプロダクト開発において重要ですが、それと同等に重要なのが「使用環境との調和」です。以前のコラム「プロダクトデザインを考える(上)」でも述べましたが、製品は機能を発揮している時間よりも「そこに置かれている時間」のほうがはるかに長いです。その間ずっと、その製品の色は生活空間に作用し続けています。
特に日用品・家電製品においては、この「場との調和」が色選択の核心になります。どれほど流行色を取り入れた製品であっても、実際の使用空間の色調・素材・光の質と調和しなければ、消費者の満足度は高まりません。逆に、使用環境と深く調和した色を持つ製品は、流行に関わらず長く愛され、ブランドへの信頼を積み重ねていきます。現在の主流トレンドであるグリーン・グレー・ベージュ・ブラウン系のニュアンスカラーが日本の住空間と高い親和性を持つのは、木・石・布・土といった自然素材を基調とする日本の生活空間と本質的に相性が良いからです。
ブランド戦略の観点から見れば、「空間に調和する製品」を作ることは、消費者の生活全体への貢献を意味します。製品単体の満足度ではなく、その製品を置いた空間が豊かになるという体験価値を提供することで、ブランドへの深い信頼と愛着が生まれます。そして流行色が時代の感情の反映であるとすれば、その色を適切に製品に取り込むことは、「今の消費者が求めているものを提供する」という製品の根本的な使命に直結します。
まとめ
- 流行色はインターカラー・JAFCA・パントン社などの専門機関が約2年先を見越して選定する。単なる「はやり」ではなく時代の感情への応答
- 流行色はアパレルから自動車・大型家電まで、数年〜十数年のタイムラグをともなって波及する。自分のカテゴリが「今どの段階にいるか」を読む視点が重要
- グリーン・グレー系のくすみカラーは波及サイクルの成熟段階にある。2026年のトレンドカラー(淡色・暖色方向)はアパレルでの転換の兆しを示している
- どれほど流行色を取り入れても、使用環境との調和がなければ消費者満足度は高まらない。「場との調和」が色選択の核心
- 感性を持つ専門家がいない企業でも、流行色の「仕組み」を理解することで根拠ある色選択ができる。色の選択を属人的な才能から組織の経営能力へ
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