これまで、AIに対する人間の優位性という観点から、消費行動の変化について論じてきました。「エモい」の正体、「ワザ消費」、地方創生と「祭り」——いずれも、AIには代替できない何かを求める人間の心理を軸に据えたテーマでした。この文脈で説明できる重要な消費行動の一つに、アパレル(ファッション)があります。本稿は私個人の考察であり、断定的な結論を示すものではありませんが、一つの視点として読んでいただければ幸いです。
ファッションの底上げと、二極化する消費者
ファストファッションが主流になり、オンライン販売が発展したことにより、全国津々浦々、誰もが一定水準のファッションを身に着けられるようになりました。かつては、都市部と地方、あるいは所得の高低によって、身に着けられるファッションの水準に明確な差がありました。しかし今では、価格帯を抑えながらもトレンドを反映した商品が全国どこでも手に入り、オンライン上のコーディネート事例を参考にすれば、専門知識がなくても一定水準の着こなしを再現できます。その結果、社会全体のファッションレベルは、以前と比べて一段階底上げされたと言えるでしょう。AIによるコーディネート提案が普及すれば、この傾向はさらに強まっていくはずです。骨格診断やパーソナルカラーといった個人の特性データをAIが解析し、最適な組み合わせを提示する仕組みは、すでに実用段階に入りつつあります。
ここで私が注目したいのは、アパレルの消費者が、大きく二つのタイプに分かれるという点です。
| タイプ | ファッションへの向き合い方 |
|---|---|
| AI共存型 | 服で個性(AIに対する優位性)を発揮したいとは考えていない。自身の優位性は別の分野で発揮するものであり、服装は「足を引っ張らない水準」であれば十分だと考える |
| AI優位性発揮型 | ファッションを、AIに対する優位性を発揮するための道具として捉えている。服装そのものを、自分らしさを示す主戦場と位置づける |
AI共存型 — ファッションを「弱点にしない」という選択
一つ目のタイプは、ファッションによって個性を発揮したいとは考えていない消費者です。自分の強みや優位性は別の分野(仕事の専門性、趣味の技術、人間関係など)で発揮するものであり、服装については「足を引っ張るような弱点にならなければそれでよい」というスタンスを取ります。このタイプの消費者は、AIコーディネートの利用など、AIをより積極的に活用することで、今後さらにファッションの水準を高めていくでしょう。ファッションという分野において、AIとの共存を選択する消費者だと言えます。ファストファッションとオンライン販売の普及が可能にした「誰もが一定水準に到達できる」という状況は、まさにこのタイプの消費者にとって理想的な環境です。ビジネスシーンでの服装選びに時間をかけたくない人、失敗のリスクを避けたい人にとって、AIが提示する「無難で外さない」提案は、大きな価値を持ちます。この層にとって重要なのは、服そのものではなく、服選びにかかる時間と判断コストを最小化し、その分のエネルギーを自分が本当に力を注ぎたい領域に振り向けられるかどうかです。
AI優位性発揮型 — 「尖ったファッション」という戦場
もう一つのタイプは、ファッションを個性発揮のための道具として捉え、AIに対する優位性を発揮するための分野と位置づけている消費者です。これは、身体という人間最大の強みを活かすための戦術であり、タトゥーや筋トレの世界的な流行と同じ文脈で説明できます。身体そのものを表現の場とする点で、根は同じだからです。
AIに対する優位性を発揮するためのファッションですから、必然的にAIが苦手とする領域を志向することになります。それが「尖ったファッション」です。AIは「尖ったファッション」を苦手とします。なぜなら、「尖ったファッション」の本質は、着る人自身の「自信」と「確信」にあるからです。AIが導き出す「尖ったファッション」は、しょせん「変わった着こなし」「珍しい服」「奇妙な組み合わせ」の域を出ません。着る人自身の「自信」と「確信」に裏打ちされて初めて、それは本当の意味での「尖ったファッション」になります。データや統計から導かれた最適解ではなく、他者の評価を恐れない一人の人間の意志こそが、「尖ったファッション」を成立させる核心です。
この違いは、AIに同じ服の組み合わせを提案させてみるとよくわかります。AIは過去のデータやトレンド情報をもとに「奇抜な組み合わせ」を提示することはできても、その組み合わせを「なぜ自分が着るのか」という理由まで踏み込んで説明することはできません。「尖ったファッション」を身にまとう人は、多くの場合、その装いに自分なりの理由やストーリーを持っています。奇抜に見える着こなしの裏に一貫した美意識や哲学が存在するとき、それは単なる「変わった格好」ではなく、一つの「表現」として周囲に伝わります。この「理由を語れるかどうか」こそが、AIが模倣できる領域とできない領域を分ける境界線だと言えるでしょう。
「尖ったファッション」市場は、今後拡大する
AIに対する人間の優位性という観点から、私は今後、「尖ったファッション」の市場規模が増大していくのではないかと考えています。AI共存型の消費者が増え、社会全体のファッション水準が底上げされればされるほど、「AIでも十分」という選択肢が当たり前になります。その反動として、「AIには真似のできない領域で自分を示したい」という欲求が、相対的に際立っていくはずです。誰もが同じようにAIの提案通りに服を選ぶ社会の中で、自らの「自信」と「確信」だけを頼りに服を選ぶ姿勢そのものが、稀少で価値のあるものになっていくと考えられます。
これは、以前の記事でお伝えした「エモい」の構造とも重なります。AIの進化が進むほど、人はAIに代替されない領域に安心や価値を見出そうとする——「尖ったファッション」もまた、その一つの表れだと私は捉えています。社会全体のファッション水準が均質化していく中で、あえて均質化から外れる選択をする人が増えていくとすれば、それは矛盾ではなく、AIの時代における人間の自然な適応の一つの形なのかもしれません。
企業にとっての示唆
この二極化は、アパレル業界に限った話ではないと私は考えています。AI共存型と同じ構造は、あらゆる商品・サービスの選び方に広がっていくでしょう。AIに任せて効率化する領域と、あえて自分自身の意志で選び取る領域——この二つの棲み分けが、今後のあらゆる消費行動に共通する構図になっていく可能性があります。
企業のブランド戦略においても、この視点は重要です。「AIが提案する最適解に寄せる」方向を目指すのか、それとも「顧客自身の自信と確信を後押しする」方向を目指すのかは、まったく異なる戦略です。特に、価格競争や効率競争ではAIとの共存型の大手に敵わない中小企業にとっては、後者——顧客の「自信」と「確信」を支える存在になるという方向性——のほうが、独自のポジションを築きやすいのではないでしょうか。データに基づく無難な最適解ではなく、「あなたらしさ」を後押しする提案ができるかどうかが、これからのブランディングの分かれ目になっていくと私は考えています。
まとめ
- アパレルの消費者は「AI共存型」(服を弱点にしないための実用的選択)と「AI優位性発揮型」(服を個性発揮の道具とする選択)の二つに分かれる
- AI共存型は、AIコーディネートの活用によって、社会全体のファッション水準をさらに底上げしていく
- 「尖ったファッション」の本質は、着る人自身の「自信」と「確信」にあり、AIが導き出す最適解では再現できない
- AI共存型が広がるほど、その反動として「尖ったファッション」の相対的な価値・市場規模は拡大していく可能性がある
- この二極化はアパレルに限らず、あらゆる消費行動に広がりうる構造であり、企業のブランド戦略にも重要な示唆を持つ
ET-OFFICE 経営労務デザインでは、消費者心理の変化を踏まえたブランド戦略・デザイン戦略の立案から実行まで、経営全体の視点でご支援しています。「自社らしさをどう打ち出せばよいかわからない」という方も、まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。

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