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2026年10月1日から、同一労働同一賃金に関する改正省令・告示が施行・適用されます。短時間・有期雇用労働者の待遇改善を、さらに進めるための措置です。法改正への対応というと、待遇差の点検や規程の見直しといった「守り」の作業に目が向きがちです。もちろんそれは欠かせません。しかし今回は、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。短時間労働者の力を、経営にどう活かすか。そこに、停滞する業績の意外な突破口があるかもしれないからです。

賃金格差の根にあるのは、「エンゲージメントの扱いの差」です

いわゆる正社員と、短時間・有期雇用労働者の間に賃金格差が生まれてきた理由は明快です。正社員は、長期安定的に企業活動の中核を担う人材。短時間・有期雇用労働者は、補助的な役割を担う人材。多くの会社は、そう位置づけてきました。

この位置づけの違いは、賃金だけでなく、会社の関わり方そのものの違いとなって表れます。終身雇用を前提とした中核人材には、教育の機会を与え、経営方針を伝え、意見を求め、エンゲージメントを高めようとする。一方、補助的人材には、決められた仕事を決められた時間にこなしてもらえればよい、と考える。賃金格差の根には、この「エンゲージメントを重視するかどうか」の差があるのです。

同一労働同一賃金の考え方では、職務の内容や責任の程度、配置変更の範囲が正社員と同じであれば同じ待遇に、違いがあればその違いに応じたバランスのとれた待遇にすることが求められます。実質的に正社員と同様の役割を担っているのであれば、同一の賃金が基本です。ここは法律上の要請であり、議論の余地はありません。

補助的な役割であっても、エンゲージメントを軽んじる理由にはなりません

では、実際に補助的な役割にとどまっている場合はどうでしょうか。賃金に差があること自体は、役割の違いに応じたものであれば認められます。しかし、エンゲージメントまで軽んじてよいことにはなりません。人材活用の観点から見れば、それは大きな損失です。

短時間労働や補助的な業務だからこそ見える課題や改善点、アイデアがあるはずです。そしてそれは、正社員からは見えにくいものです。短時間労働者も会社の大事な資産であり、その目に映っているものを経営に活かさない手はありません。

短時間労働者だからこそ、見えているもの

なぜ、短時間労働者には正社員に見えないものが見えるのでしょうか。それは能力の問題ではなく、立っている位置の違いによるものです。整理すると、少なくとも六つの理由があります。

見えている理由見えやすい課題・改善点の例
限られた時間で成果を出している
一つの非効率が占める比重が大きい
二重入力、承認待ちの手待ち時間、探し物、目的のはっきりしない確認作業
業務の「つなぎ目」に立っている
シフト交代や引き継ぎの当事者
引き継ぎの抜け漏れ、口頭だけの伝達、人によって違うやり方、古いままのマニュアル
顧客との接点の最前線にいる
レジ・電話・受付・配送
繰り返し聞かれる質問、言葉にならない小さな不満、ほかの店や会社との比較の声
生活者としての時間が長い
勤務時間の外で消費者として過ごす
利用者の目で見たわかりにくさ、競合のサービスとの違い、世の中の流行の変化
社内の慣習に染まりきっていない
他社での経験や掛け持ちの経験
「なぜこうしているのか」という素朴な疑問、他社ではうまくいっているやり方
多様な人生経験を持っている
子育て・介護・シニア・学生
子ども連れの顧客や高齢の顧客への配慮、新しい商品やサービスのヒント

一つ目の理由は、特に見落とされがちです。一日8時間働く人にとって、毎日15分の手待ち時間は勤務時間の3%ほどにすぎません。ところが一日4時間の人にとっては、その倍以上の比重になります。短い時間で結果を出そうとする人ほど、無駄に敏感です。正社員が「そういうものだ」と慣れてしまった非効率を、最も鋭く感じ取っているのは、短時間労働者かもしれません。

三つ目と四つ目も、経営にとって貴重な情報源です。顧客が繰り返し尋ねる質問は、案内や表示、商品説明のどこかがわかりにくいことを示すサインです。そのサインを毎日受け取っているのは、多くの場合、最前線にいる短時間労働者です。さらに彼らは、勤務時間の外では一人の生活者として、他社の商品やサービスを利用しています。会社の外と内、両方の目を持っているのです。

五つ目と六つ目は、新しい発想の源になります。社内に長くいると、暗黙のルールや昔からの慣習は、疑う対象ではなくなります。他社で働いた経験や、いくつかの職場を掛け持ちしている経験を持つ人は、「前の職場ではこうしていた」という具体的な比較の物差しを持っています。また、子育て中の人は子育て世代の顧客が何に困るかを、介護をしている人は高齢の顧客が何に戸惑うかを、自分のこととして知っています。商品やサービスの改善のヒントは、会議室よりも、こうした一人ひとりの暮らしの中にあることが少なくありません。

例えば、よく聞かれる質問をまとめて案内表示や社内のQ&Aにする。引き継ぎの内容を決まった様式のメモに残す。混み合う時間帯の人の配置を見直す。子ども連れの顧客のために売場の通路を広げる。どれも大きな投資を必要としない改善ですが、現場で毎日それを感じている人の声がなければ、なかなか思いつかないものです。

その声は、なぜ経営に届かないのか

見えているものがあっても、それが経営者に届くとは限りません。多くの職場で、短時間労働者の気づきは、声にならないまま埋もれています。埋もれる理由と、それを引き出す仕組みを並べてみます。

声が埋もれる理由声を引き出す仕組み
「補助的な立場で口を出すべきではない」という遠慮経営者自身が「あなたの意見を聞きたい」と明言し、意見を求める対象を全員に広げる
会議に出る機会がなく、勤務時間外には話す場もない勤務時間内に短い意見交換の時間を設ける。シフトに入っている時間に書き込める提案シートを用意する
言っても変わらなかった経験出された意見には、採用・不採用にかかわらず必ず返事をする。採用した改善は、誰の提案かを添えて共有する
提案しても評価に反映されない改善への貢献を、評価や手当の対象に含める
会社の状況を知らされておらず、提案の前提がない経営の目標や数字を、短時間労働者にも共有する

なお、意見交換の場を勤務時間の外に設けると、参加を事実上求めている場合には労働時間として賃金の支払いが必要になります。何より、時間外の参加を前提にすると、家庭の事情などで短時間勤務を選んでいる人ほど参加できなくなります。声を集める仕組みは、勤務時間の中に組み込むのが基本です。

人件費の上昇を、「投資」に変えるために

待遇改善による人件費の上昇は、短期的には経営の負担になります。しかし、それが経営の改善につながれば、長期的には必要な投資であったと考えることができます。負担で終わらせるか、投資に変えるか。その分かれ目は、短時間労働者を「コスト」として扱い続けるか、「資産」として活かすかにあります。

そのために欠かせないのが、短時間労働者も含めて全社員が同じ情報を共有し、経営者と同じ目標を見据えることです。会社がどこへ向かおうとしているのかを知らなければ、どれほど鋭い気づきを持っていても、それを役立つ提案に変えることはできません。目標が共有されて初めて、一人ひとりの気づきは同じ方向を向きます。

人手も資金も限られる中小企業にとって、今いる人の力を引き出し切ることは、何より確実な経営資源の拡充です。短時間労働者を含めた人材のフル活用こそが、中小企業の生きる道だと考えます。

まとめ

  • 2026年10月1日から、同一労働同一賃金に関する改正省令・告示が施行・適用される
  • 賃金格差の根には、正社員は中核人材としてエンゲージメントを重視し、短時間・有期雇用労働者は補助的人材として重視してこなかった、という関わり方の差がある
  • 実質的に同じ役割なら同一賃金が基本。補助的な役割であっても、エンゲージメントを軽んじるのは人材活用上の損失である
  • 短時間労働者には、限られた時間・業務のつなぎ目・顧客との接点・生活者の視点・社外の経験・多様な人生経験という、正社員にはない六つの見える位置がある
  • その声が埋もれる理由(遠慮・場がない・変わらない・評価されない・情報がない)を一つずつ取り除き、勤務時間の中で声を引き出す仕組みをつくる
  • 全社員が同じ情報と目標を共有すれば、人件費の上昇は負担ではなく投資に変わる

ET-OFFICE 経営労務デザインでは、同一労働同一賃金に対応した待遇差の点検や規程の見直しから、短時間労働者を含めた全社員の力を引き出す評価制度・情報共有の仕組みづくりまで、トータルにサポートします。「改正への対応に不安がある」「パート社員の力をもっと活かしたい」という方も、まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。

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