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前編(上)では、Z世代を中心に広がる「エモい」という感情の正体について、私見を述べました。「エモい」は「なつかしい」とは異なり、自分自身の記憶をベースにしない感情であること。その正体は「安心」であり、AIがもたらす進化への恐怖からの逃避ではないかということ。そして、すでに生存競争を勝ち抜いた過去のものに触れることで、Z世代は「敗れる心配がない」という安心感を得ているのではないかということをお伝えしました。今回(下)では、この仮説をふまえ、企業が「エモい」という感情にどう向き合い、ブランド戦略・デザイン戦略・人事労務戦略にどう活かせるのかを考えていきます。本稿もあくまで私個人の考察であり、断定的な結論を示すものではありません。

「エモい」はマーケティングの一過性トレンドではない

「エモい」という言葉自体は流行語のように扱われがちですが、その根底にある感情のメカニズムが「AIによる進化恐怖からの逃避」だとすれば、これは一過性のトレンドとして片づけられるものではないかもしれません。AIの進化が今後も続く限り、その恐怖もまた続き、「安心」を求める感情も持続する可能性があります。つまり「エモい」は、一時的な消費者の気まぐれではなく、今後長期にわたって企業のブランディングに影響を与え続ける、構造的な消費者心理として捉えたほうがよいのではないかと私は考えています。

この前提に立つと、企業が取るべき向き合い方も変わってきます。「昭和レトロが流行っているから、パッケージを昭和風にしてみよう」という表層的な模倣では、一時的な話題づくりにはなっても、「エモい」の本質である「安心」を提供することにはつながりにくいでしょう。重要なのは、「安心」そのものを、事業のどこに、どのように組み込むかという視点です。

「エモい」ブランディングに必要な二つの要素

「エモい」の正体が「生存競争を勝ち抜いた安心感」だとすれば、企業がそれを提供するために必要な要素は、大きく二つに整理できるのではないかと私は考えています。一つは「時間による証明」、もう一つは「変わらないことの一貫性」です。

要素内容
時間による証明長く続いてきたこと自体が、「生存競争を勝ち抜いた」ことの証になる。老舗であること、創業からの歴史、変わらぬ製法や技術は、それだけで「安心」の裏付けになりうる
変わらないことの一貫性流行に迎合して頻繁に変化するブランドよりも、核となる部分を変えずに一貫して存在し続けているブランドのほうが、「安心」を感じさせやすいのではないか

もちろん、企業が事業を継続していく上では、時代に応じた変化や革新も欠かせません。ここで重要なのは、すべてを変えないということではなく、「何を変え、何を変えないか」を意識的に線引きすることだと思います。表層のデザインやサービスは時代に合わせて進化させながらも、根底にある姿勢や価値観、変わらぬこだわりの部分を明確に打ち出す。この「変わる部分」と「変わらない部分」の両立こそが、「エモい」ブランディングの核になるのではないでしょうか。

三本柱の視点で「エモい」を経営に組み込む

ET-OFFICEが掲げるデザイン戦略・ブランド戦略・人事労務戦略の三本柱の視点から、「エモい」という消費者心理をどう経営に組み込めるかを整理します。

視点取り組みの方向性
デザイン戦略
「変わる部分」と「変わらない部分」を設計する
製品・サービス・店舗デザインにおいて、時代に合わせて更新すべき要素と、創業以来変えていない要素を切り分けて可視化する。変えない部分をあえて残すことが、意図的な「エモさ」の設計になりうる
ブランド戦略
「時間による証明」を発信する
創業年数・沿革・変わらぬ製法やこだわりを、単なる会社概要としてではなく、「生存競争を勝ち抜いてきた物語」として発信する。Z世代に向けては、押しつけがましい説明ではなく、写真や質感を通じて感じ取ってもらう発信を意識する
人事労務戦略
従業員が語れる「物語」を育てる
古参の従業員が持つ経験や、変わらず受け継がれてきた社内の価値観は、それ自体が「エモい」の源泉になりうる。従業員が自社の歴史や姿勢を自分の言葉で語れる状態をつくることが、ブランドの説得力を高める

特に中小企業にとって、この視点は大きな可能性を持っていると私は考えています。大企業のような潤沢な広告予算がなくても、長年積み重ねてきた歴史や、変わらず守り続けてきたこだわりは、中小企業だからこそ持ちうる資産です。それを「古い」「時代遅れ」として隠すのではなく、「安心」の源泉として意図的に打ち出すことで、これから消費の主役になるZ世代に届くブランディングにつながるのではないでしょうか。

「エモい」を狙いすぎない、というバランス感覚

最後に一つ、注意点を挙げておきたいと思います。「エモい」の正体が恐怖からの逃避だとすれば、それを企業側が過度に演出し、狙いにいくことには、慎重であるべきかもしれません。作為的な「懐かしさの演出」は、かえって「安心」ではなく「わざとらしさ」として受け取られるリスクがあります。

大切なのは、すでに自社が持っている歴史やこだわりを、正直に、丁寧に伝えることだと私は思います。「エモい」を狙って新しく作り出すものではなく、すでにそこにある価値に、光の当て方を工夫して気づいてもらう——そのスタンスのほうが、長期的な信頼につながるのではないでしょうか。

まとめ

  • 「エモい」は一過性のトレンドではなく、AIの進化が続く限り持続しうる構造的な消費者心理として捉えられる
  • 「エモい」ブランディングに必要なのは「時間による証明」と「変わらないことの一貫性」の二要素
  • すべてを変えないのではなく、「何を変え、何を変えないか」を意識的に線引きすることが核になる
  • デザイン戦略(変える/変えないの設計)・ブランド戦略(時間の物語の発信)・人事労務戦略(従業員が語れる物語づくり)の三本柱で経営に組み込める
  • 中小企業が積み重ねてきた歴史やこだわりは、それ自体がZ世代に響く資産になりうる
  • 「エモい」を作為的に演出しすぎず、すでにある価値に光を当てるという姿勢が、長期的な信頼につながる

(上)でお伝えした「エモい」の正体の分析と合わせて、自社の歴史やこだわりをどう発信していくかを考える一つのきっかけになれば幸いです。


ET-OFFICE 経営労務デザインでは、消費者心理の変化を踏まえたブランド戦略・デザイン戦略の立案から実行まで、経営全体の視点でご支援しています。「自社の歴史やこだわりをどう発信すればよいかわからない」という方も、まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。

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